何でも四谷のJ大では、夢見の古代誌、真怪研究、『冥報記』輪読、それぞれの研究グループが草木も眠れぬ真っ昼間から密談を繰り広げているそうな。

2010年7月18日日曜日

歩く丹田の系譜−身体イメージがつなげる哲学・信仰・養生・芸能−

学習院大学で開催された「からだの文化-修行と身体像-」という研究ワークショップで、以下の研究報告を行ってきました。



図版資料などは早稲田大学が公開している『養性訣』を転載しました。
早稲田大学の古典籍総合データベースは、貴重な文献を画像でまるっと公開してくれているのでたいへんありがたいです。
また原典資料は多く近代デジタルライブラリーに拠っています。僕みたいな伝統と近代の淡いを研究しているものにとっては宝の山です。これまた感謝。
そうそう兵法者の白井鳩洲についてはウィキペディアに情報がありました。趣味的な分野はホントに強い。

質疑では夏目さんやもろさんにかなり助けてもらいました。
武智は歌舞伎、鈴木は能を参考にしている点で違うし、鈴木のバレエ理解に偏向があるというご指摘をいただきました。このへん論文化する上ではつめないといけないです。武智×鈴木の対談は『定本武智歌舞伎』にあったっけ。
コンテンポラリーダンスをされてる方からの「気」についての質問は最初かみ合ってなかったのですが、後でさらに話をして僕も質問してくれた方も一応腑に落ちたようでよかったです。個々の事例で違う認識がなされていることを積み重ねていくことで、見えてくるものを考えてみたいというのが、「丹田」をキーワードにした目的の一つだったので、こうした議論ができてよかったです。
もちろん現代に踏み込むとそこここに地雷はあるもので、斉藤孝さんや甲野善紀さんを論ずるあやうさは、まあ承知しているのですが、きちんと評価してきちんと問題にするのが研究者としての筋かなとがんばってみたいと思います。
もっとも今回馬貴派に関して初めて論の中で言及したんですが、参照できる紙媒体はおおむね現在縁の切れた人たちが関わっているので、半分中の人としては、これを読んで勘違いされても困るなと、余計な心配をしたりしている次第です。
そうした面倒も引き受けるのが方法論懇話会魂でしょうか。どうなんでしょう。

からだの文化―修行と身体像―

身体訓練の伝達を身体と言語・イメージの関係において考える2日間として、学習院大学で以下の研究ワークショップを実施しました。
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日  時:2010年7月17日(土)・18日(日)
会  場:<研究発表> 西5号館302教室 <ワークショップ> 卓球場(大学体育館横)
総合司会:夏目房之介(学習院大学身体表象文化学専攻教授)

【タイムテーブル】
◎7月17日(土)
13:00〜14:00 研究発表Ⅰ「マンガにおける修行イメージの伝承」夏目房之介
14:00〜14:15 休憩
14:15〜15:15 研究発表Ⅱ「仏教の修行マニュアルに見る「身体」イメージ」師茂樹
15:15〜15:30 トークセッション (フロアをまじえての全体討議です)
16:00〜18:00 李保華氏ワークショップ(中国伝統武術 馬貴八卦掌)
◎7月18日(日)
13:00〜14:00 研究発表Ⅲ「日本近代のピアノ教育における身体イメージの剛と柔
         ―井口基成と宅孝二の比較から―」大地宏子
14:00〜14:15 休憩
14:15〜15:15 研究発表Ⅳ「歩く丹田の系譜−身体イメージがつなげる哲学・信仰・養生・芸能−」野村英登
14:50〜15:30 トークセッション (フロアをまじえての全体討議です)
16:00〜18:00 山田せつ子氏ワークショップ(コンテンポラリーダンス)

【研究発表】
◆研究発表Ⅰ 7月17日(土)13:00〜14:00(質疑応答を含む)
「マンガにおける修行イメージの伝承」
発表者:夏目房之介(学習院大学)
要 旨:戦後マンガにおいては、少年マンガ雑誌のスポーツ、忍者、武道物を中心に、その訓練場面が描かれてきたが、60年代の読者高齢化に伴い、まず白土三平がどろんと化ける忍術から身体修練による忍法を描き、それが野球マンガの中で「魔球」を生み出す。厳しい鍛錬による「魔球」開発は、ほぼ同時に格闘技マンガへと波及し、スポーツ物少女マンガにも影響を与える。ここで見られる超越的な身体と能力のインフレが、70年代以降には次第にバレエ、スポーツ、格闘技などにおける「リアル」な訓練描写をも生み出してゆく。一方に超越的身体を実現する神秘的修行をイメージし、他方にドキュメンタリー的な興味を引く「リアル」な身体と訓練の知識伝達も果たすようになるマンガの、身体像の変化を辿ってみたい。
◆研究発表Ⅱ 7月17日(土)14:15〜15:15(質疑応答を含む)
「仏教の修行マニュアルに見る「身体」イメージ」
発表者:師茂樹(花園大学)
要 旨:仏教の禅などの修行においては、しばしば自己の身体の内的な観察という方法が用いられる。そこで対象となる身体は、近代的な生物学・医学的な身体ではなく、しばしば神話的に想像されたものであるが、それが長い伝統の中で修行者に対してある種のリアリティと達成を与えてきた。本発表では、仏教の修行マニュアル中に見られる身体観察の方法と、そこで表される身体イメージについて考察したい。
◆研究発表Ⅲ 7月18日(日)13:00〜14:00(質疑応答を含む)
「日本近代のピアノ教育における身体イメージの剛と柔 ―井口基成と宅孝二の比較から―」
発表者:大地宏子(鶴見大学短期大学部)
要旨:日本のピアノ教育界では長い間、指を高く上げて鍵盤を叩く「ハイフィンガー奏法」が正しいピアノの弾き方と信じられ、また実践されてきた。ヨーロッパにおいては、「音楽的にも身体的にも百害あって一利なし」として20世紀初頭にはほぼ姿を消したこの古い奏法が、なぜかくも長い間日本で墨守され流布したのか?ここには技術論を超えた文化的精神的背景があったことが考えられる。本発表では、戦後日本を代表するピアニスト/ピアノ教育者であった井口基成と宅孝二の音楽(ピアノ)観を比較しつつ、近代日本のピアノ教育における「根性主義」的とも言える心性に焦点を当て、それを規定した精神風土の問題を論じてみたい。
◆研究発表Ⅳ 7月18日(日)14:15〜15:15(質疑応答を含む)
「歩く丹田の系譜−身体イメージがつなげる哲学・信仰・養生・芸能−」
発表者:野村英登(東洋大学)
要 旨:仏教の瞑想法で、一般に知られる座禅はもちろん、経行(きんひん)という歩きながら行う瞑想も、最近スピリチュアルの分野で改めて注目されているが、そこでは主に心の作用を重視した実践が語られているようだ。しかし中国や日本では、むしろ体の姿勢をより重視してきた。それはこのワークショップでも取り上げた中国武術の修行法にも端的に表れている、“丹田”のような身体イメージを中心とした修行法である。しばしば指摘されるように、明治大正期に伝統的な健康法が近代化されていったときも“丹田”は重要視されていた。その歴史的展開をふまえて、仏教の精神性、道教の身体性、儒教の社会性の身体における結節点として“丹田”を論じ、その現代的な可能性も併せて展望したい。

【発表者プロフィール】
★夏目房之介(なつめ・ふさのすけ)
学習院大学大学院身体表象文化学専攻教授。花園大学客員教授。専門はマンガ論。
著書『手塚治虫はどこにいる』筑摩書房1992年,『マンガはなぜ面白いのか』NHK出版1997年,『漱石の孫』実業之日本社2003年,『マンガの深読み大人読み』イースト・プレス2004年、共著書『マンガの読み方』宝島社1995年,『マンガ学入門』ミネルヴァ書房 2009年など多数。NHKBS2「マンガ夜話」 (1999〜2009年)レギュラー。1999年、マンガ批評への貢献により手塚治虫文化賞特別賞受賞。
★師茂樹(もろ・しげき)
花園大学文学部准教授、専門は仏教学・人文情報学。
日本・韓国・中国の唯識思想を研究するかたわら、人文学におけるコンピュータ利用についても関心を持つ。著書に『情報歴史学入門』(共著、金壽堂出版、2009)、方法論懇話会編『日本史の脱領域 多様性へのアプローチ』(森話社、2003)など。論文に「五姓各別説と観音の夢 ―『日本霊異記』下巻第三十八縁の読解の試み」(『佛教史學研究』佛教史学会、第50巻第2号、2008年3月)など。
http://moromoro.jp/
http://d.hatena.ne.jp/moroshigeki/
★大地宏子(おおち・ひろこ)
鶴見大学短期大学部保育科専任講師。博士(学術)。専門は音楽教育史。
ピアノ教育における「ハイフィンガー奏法」の歴史についての研究は高く評価されている(岡田暁生編『ピアノを弾く身体』春秋社,2003年所収)。また、ピアノ教育における「わざ言語」の使用 (および、その背後にある「暗黙知」)についての研究のほか、戦後、ピアニスト/作曲家として活躍した宅孝二(1904~1983年)の音楽活動が日本の戦後音楽史に果たした役割を精緻な資料調査によって明らかにしようとしている。研究・教育活動と並行してピアニストとしても活躍。
共編著:『教員・保育士をめざす人のためのピアノ教本』文化書房博文社,2010年 共訳書:ジョルジ・シャンドール著『シャンドール ピアノ教本:身体・音・表現』春秋社,2005年 
論文:「宅孝二の音楽教育観―『ソルフェージュ』と『身体』に関する言説を中心に―」(『音楽教育史研究』第9号、2006年)ほか
http://www.tsurumi-u.ac.jp/teacher/junior/ochi_hiroko.html
★野村英登(のむら・ひでと)
東洋大学共生思想研究センター研究助手、文学博士。専門は中国宗教史・中国哲学、特に道教の修行論。
財団法人交流協会日台交流センター専門職を経て、現職。花園大学国際禅学研究所客員研究員を兼任。今回は李老師の通訳も務める。 
共編著:『よくわかる老荘思想』(坂出祥伸監修、萩原昇名義、同文書院、1997) 
論文:「白隠の修養法と道教の錬金術-内観・軟酥の法と内丹-」(花園大学国際禅学研究所論叢第一号、2006)、「共生思想としての健康―道教の修養技法から―」(東洋大学共生思想研究年報、2007)、「静坐と共生」(東洋大学共生思想研究年報、2008)、「民国初期の武術と内丹―呼吸法の近代化をめぐって―」(田中文雄・テリークリーマン編『道教と共生思想』所収、大河書房、2009)など。
http://butterflylost.net/

【ワークショップ講師プロフィール】
★ 李保華(リー・バオホア)氏 
北京理工大学講師。馬貴派八卦掌第4代継承者馬貴八卦掌伝播中心主宰。馬貴八卦掌伝播中心。
馬貴八卦掌は、中国武術を代表する一方の雄である内家拳(太極拳・形意拳・八卦掌)の中でも、近代スポーツ化の波に抗して民間において伝承されてきた、伝統的な訓練体系を色濃く残した門派。今回のワークショップでは、伝統的修行身体を中国武術のユニークな理論として実践している李保華氏を北京から迎え、馬貴八卦掌と易筋経(武術と養生)の講義と実践体験教室を実施する。
http://www.maguibagua.com/Rx%20history%20of%20bagua.html
★山田せつ子(やまだ・せつこ)氏 
京都造形芸術大学舞台芸術学科客員教授。ダンスカンパニー「枇杷系」主宰。
明治大学演劇科に在学中より舞踏研究所「天使館」にて、笠井叡に師事。1977年よりソロ活動を始める。求心的で繊細なフォルムとピュアな作品づくりにより、既成の枠にとどまらず新たなダンスシーンを生み出すダンサー、コレオグラファーとして高く評価され、日本のコンテンポラリーダンスの先駆けとなる。国内外での公演多数。大学、カンパニーで若手ダンサーの育成にも力を注ぐ。主な作品「FATHER」「速度ノ花」「夢見る土地」「Songs」「ふたりいて」他。2010年秋には新作ソロ作品『薔薇色の服で』を発表予定。
著書『速度ノ花』
www.kaibunsha.net
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